写経の心得・法華経について


◆はじめる前に

写経をしたことのない方は、「自分は字が下手だから」「筆を持ったこともないし、道具もないから」「やりかたが分からないから」と、何となく敷居が高いように考えがちです。
確かに、写経には多少のきまりのようなものがあります。
しかしそれはあくまでも、写経がし易いようにと考えられたものですし、また写経本来の目的から外れないようにするための約束ごとです。儀式的なマナーとは少し違います。


◆なぜ写経をするのか

写経は、仏さまの説かれた教えを、一字一字書き写す行です。
飛鳥、奈良時代からごく普通に実践されてきたことで、本来は印刷が無い時代に書籍を書き写すという、本来の目的でされたことですが、現代では個人の修行の一環として行われるようになりました。
特に家の宗旨とか菩提寺の宗派にはこだわりませんし、どなたでも実践されたほうが、自分自身の向上につながります。

何か神霊的な障害を受けているとか、気持が落ち着かないとか、運命がパッとしない時に体制を建て直したい、という方には、写経をお勧めしています。
ですが、仏教の修行の一つですから、少しその内容について、基礎知識を持っておいていただいたほうが、より充実した修行ができます。

仏さまというのは、神社仏閣にある仏像やお札に宿ったり、人間界や自然界そのものに普遍的に宿ったりするという考え方もあります。しかし本来は、教えそのものが仏さまです。
そうなると、教えを実行する人が居る場合、その人も仏さまだ、ということになりますね。
その仏さまの説かれた教え、思想、哲学が書かれているのが、経典です。

この経典を一字一字書き写すということは、とりもなおさず、経典そのものに説かれた教え、哲学を自分のものにし、一体になることです

思想、哲学が説かれた経典というのは、その一字一字に目に見えない力があり、そこにあるだけで、良い影響を周囲に及ぼします。逆に、あまり良くない偏った思想の説か本などを側に置くと、知らず知らずのうちに悪い影響を受けてしまいます。
写経の実践をする時には、ただただ無心に一生懸命に書く、一字一字を丁寧に書くだけで、何を願う、何を考える必要もありません。

何かの為にする、というのは、邪道です。無心に集中するからこそ、禅定(ぜんじょう)の効果が現れるので、利害損得を考えると修行になりません。

それだけに、写経されたものは字の上手下手ではなく、書いた人の心のありかた、人生観そのものが如実に現れます。
雑念を捨てて、真摯な気持ちで行えば、よりいっそう、その効果が現れます。悩みや執着に煩わされているときでも、写経に集中すればその悩みを忘れられ、ひいては悩みそのものから解放されるようになります。

心にしっかりしたよりどころがあり、いかなるものにも動じることのない信念の力を養うのが、書写行の目的です。
そういう気持ちで行えば、字そのものも自然と、品格の備わった、その人自身を体現するような字が書けるようになります。字の形の上手下手は問題になりません。
しかし、曲がった姿勢で書いたら、字も曲がりその人も曲がり、ひいては人生も曲がってしまうでしょう。
居ずまいを正し、一字一字を大切にして、ただ無心で行うよう、心がけましょう。


解説と注意事項

◆書体の変遷

経典に限らず、漢字の書体には、時代によってさまざまな変遷を遂げてきた歴史があります。日本では小野東風独自の書体である、和様という柔らかな書風が普及してきました。写経の時には、中国から伝わったままの唐様という力強い書体も使われます。
この唐様の書体にもさまざまなものがあり、南北朝では北朝と南朝の書体が違い、辺境で用いられる古書体もあり、字画に統一性がありませんでした。
これが随、唐のころに統一されて、現在の楷書体となりました。写経の方では、書道の学問所教授であった欧陽詢の筆法が使われてきました。日本でもこの書風、字体がそのまま平安時代から受け継がれています。

しかしこの書体は、現代人の通常使用する書体からあまりに離れていること、もう一つは、読誦用の経典の書体とは違うということを考え、読誦用の経典に使われている書体を、そのまま使用することが最も適当と思います。

しかし年齢が若く、まだ日常使用する漢字をしっかりマスターしていない方には、現代の楷書体と完全に同じ経典もありますので、これを手本として使用されるのもよいでしょう。普通の社会人は、読誦用経典を手本として使用されることをお勧めしています。


◆正しい筆順で書く

字を上手に、誤りなく書くコツは、とにかく正しい筆順をしっかり覚えることです。
タテ、ヨコ、偏(へん)、旁(つくり)などの筆順の原則をいったん覚えてしまえば、初めて書く字でも異体字でも、迷わず上手に書くことが出来ます。

そのためにまず、題目(南無妙法連華経)を、現代の一般的な書体で書いてみましょう。いい加減な筆順で書いていた人は、しっかり訂正する良い機会です。
題目はただ書くだけではなく、別章で述べている、題目の意味を考えながら書くと、なお良いですね。

題目を百回ほど書いてみて少し慣れてきたら、方便品第二、如来寿量品第十六、観世音菩薩普門品第二十五を書いてください。
その時、筆順に疑問が出た時のために、参考書を一冊お買い求めいただくと良いでしょう。写経以外にも、筆順や画数を調べるときに役立ちます。

ちなみに、画数に関しては、市販の漢和字典の中にさえ、間違っているものが多々あります。漢和辞典では大修館書店のものが定評がありますが、大手出版社でも辞典が専門でない出版社のものは、非常にミスの多いものがあるようです。

参考図書


◆なぜ法華経なのか

写経というと、般若心経が一般的です。般若心経というと、非常に難しい経典のように思われがちですが、じつは、般若心経に説かれている内容というのは、法華経のほんの一部です。
妙法蓮華経というのは、大乗仏教の代表、醍醐味ともいえる経典で、深く読まれれば、小乗、大乗すべての仏典の内容を網羅しています。
法華経の訳にも何種類かありますが、鳩摩羅什(くまらじゅう=クマーラ・ジーバ)の訳で有名な「妙法蓮華経」が、最高のものとされています。

◆法華経の構成について

妙法蓮華経は六万九千三百八十四文字、二十八品(二十八章)から構成されています。
厚手の単行本一冊ほどの量ですが、最初はこの中から、最も中心的な部分をピックアップして写経されるのが良いでしょう。法華経要品に抜粋されている部分です。
だんだん馴れてきましたら、法華経全巻の写経に取り掛かり、出来上がったものを巻物に仕立てて、自分の家の守りとしてお祀りされることを目標にされるのが、最高です。

もし日蓮宗の寺院などで写経セットをお求めになった場合、写経の手本についているのは、四文字又は五文字で区切られたものが多いでしょう。これは「偈(げ)」という部分で、地の文章の要約を、詩の形式で説いた部分です。

法華経が他の経典と違うのは、自己の向上、悟りのための方法が、具体的に書かれていることです。その方法とは「読経、写経、理解、人の為に説く、自分自身が信じ受け入れる」などです。写経はまず一番入門しやすく、自分自身の為に効果の大きい方法です。


◆観音経について

一般的にお勧めしているのは観音経の写経ですが、普通、観音経といっているのは、正しくは「妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五」(みょうほうれんげきょう・かんぜおんぼさつふもんぽん・だいにじゅうご)といい、法華経の一部です。

観音経に書かれていることは、法華経の教えを広く世間に広めようという内容です。
法華経全体の最も肝心かなめの部分は、「方便品第二」と「如来寿量品第十六」です。しかし観世音菩薩普門品は、内容が普及を中心としているためか、すべての仏教宗派で取り上げられています。

また他の宗派では、読経するといっても、教祖の書いたものを読み上げたりする傾向があり、経典じたいを読む量が少ないようですが、これはたいへん残念なことです。
三宝とは「仏法僧」ですから、僧じたいを仏や法と同列に敬う、という考え方は分かりますが、人間にはそれぞれ癖がありますから、何も遠回りをする必要は無いと思います。
せっかく法華経に触れるのであれば、観音経だけで終わってしまうのでは、惜しいことです。深く内容を理解するためには、ぜひ法華経の他の部分も学ぶようにされとよいでしょう。


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