風水巷談:目次

パシフィコ・風水・ハーモニカ



フェスティバル?

どうも近代建築というのは、風水とはあんまり相性がよろしくないようである。
建築家のイメージやコンセプトを大事になさるのも結構だが、個人の感性というのは、ひとつ間違うと、大多数の人がそう受け取らないことがある。私の身近でも、その好例にお目にかかった。
理論づけはどうでもいいが、とにかく百聞は一見にしかずである。

ある日、私は横浜のパシフィコというところに用事が出来た。
といっても、大した用事ではない。国際ハーモニカフェスティバルに行くだけである。別に自分が出演するわけではなく、単なる見物である。
ガラコンサートやいろんな催しもあり、いつもはドイツで開かれる世界コンテストが同時に開催される。いろんな一流アーティストの演奏を生で聞く、絶好の機会なのだ。
特にコンテストは、コンサートと全く違う緊張感があって、高見の見物なら大好きだ。
自由参加の時間もあるので、下手でも何でも、出ようと思えば出られる。そんなこと、しても良いような良くないような。

ハーモニカの世界なんて狭いもので、ハーモニカの中でもさらにブルースハープという機種に限定すると、さらにさらに超マイナーになってしまい、ちょこちょこCDなど集めていると、あっと言う間に知りあいになってしまう。

この前も、日本ハーモニカ連盟の会報に、「○○のカントリー・アンド・ウエスタン特集のテープが出ました」(今どきテープである)というチラシが入っていたので、書いてあった番号に電話した。すると、
「はい、○○時計店です」と店主が出て、
「あっ、あのテープですか。お近くだったら、こちらに取りにいらっしゃいませんか」と言われ、「行けないので」というと、
「じゃあ、送ります。それから、今度の土曜日ですね、○○の○○でセッションやりますから、よろしかったらいらっしゃいませんか。ぼく、ベース担当の○○です。ハーモニカは日本の民謡をカントリー調で2曲ほどやりますけど」

これが、アーティスト本人である。家庭的というか、ほほえましいというか、たかがテープ1本注文した人間に、この調子である。(ひょっとして、女の声だったからか……)
会報にしてからが、自分で住所氏名を書いて切手を貼った封筒を、ヤマハハーモニカの中に間借りしている連盟に預けておくと、オジサンが、行事の予定表のコピーをカサコソ入れて送ってくれるという寸法である。

セッションに誘われたからって、プロでもないし、どこかの先生や教室に所属しているわけでもないので、とてもコッ恥ずかしくって、そんなことできたもんじゃない。
だいいち、変なオバサンがロックやブルース演奏したって、よっぽどドギモを抜くくらいの名手でなくっちゃ、サマにならないよね。
こんなこと止めときゃいいんだけど、どうもこれは私の持病のようなもので、手元からハーモニカが手放せないのだ。子供の頃に比べてめっきり吹かなくなったが、いちおう、各種のハーモニカ(ブルースハープ限定)がGからFまで12キー揃っている。
ゴリゴリのロックファンなので、ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンのバックをつけてあげたりする。もちろん、CDでの話である。向こうさんがそんなこと知るわけない。

私とハーモニカのつきあいは古い。小学校の3年生ぐらいだったと思うが、この単音のハーモニカを明治生まれの父親に教わり、寝ても覚めても手放なさかったもので、学校で一番の名手になってしまった。自分で名手って言うのもナンだけど。

これは「10ホールズ」とか「ブルースハープ」というハーモニカで、小学校の頃持っていたのはヤマハの初期の木製モデルだった。
後日、同じものがショーケースの中で、「吉田拓郎の使っていたモデル」として、麗々しく陳列されているのを見た時は懐かしかった。私のはとっくにバラバラになってしまったけど。


初お目見え

あれこれ思いながら、やっと二日間やりくりをつけて、「みなとみらい21」に向かった。この辺りは昔はよく知っていたが、「ランドマークタワー」や「パシフィコ」が出来てから、どうも横浜らしい雰囲気が損なわれた感じがして、近付かなくなった。
山下公園や馬車道、伊勢佐木町界隈は昔のまんまだが、みなとみらい地区ぐらいに近代的なビルが立ち並んでしまうと、どこもかしこも同じだ。どうせお上りさんしかいないだろう。
私は博多生まれなので、港町らしい雑多なエネルギーが渦巻いているのが、何となく性に合っている。ガラが悪いといえば悪いけど。

パシフィコの場所は分かっている。東横線の桜木町から歩いて行けるが、時間に余裕がない時は、けっこう距離がある。
おまけにヒールの高いブーツを履いてきたので、コンテストの開始に遅れないよう、横浜駅からタクシーで行くことにした。コンテストの途中でガサゴソ入って行くぐらい、ハタ迷惑なことはないからなあ。気が散って演奏間違っちゃう人がいるかも知れないし。たとえ演奏の合間だって、嫌なものだ。

横浜駅からタクシーに乗り、ドライバーに行く先を告げる。滅多にタクシーには乗らないのだが、今日はいいの、いつもの自分と違う自分を見出す日だから。違う自分がうまく行かなかったら、忘れてしまえばいいの。

「みなとみらい21」地区に車が近づいて行くと、妙なものが視界に飛び込んできた。
まるで、巨大な日本刀の切っ先のような建造物である。これがパシフィコだった。内部には横浜インターコンチネンタルホテル、パシフィコ会議センターなどが入っている、横浜の売り物の一つだ。

角度によるかもしれないが、初めて車の中でこの建物の外観がいきなり目の前に現れた時には、思わずギックリしてしまった。
目的はパシフィコ会議センターなので、この建物じたいに入って行く訳だ。
やれやれ、何でこんなものの中に入らなくちゃいけないんだ、と思いながら私の憧れのブルースプレーヤーの集う会場に入って行った。
ハモニカや音楽の話は、同好の士でないと退屈なだけだろうから、この辺でよす。


認識の違い

しかし、パシフィコを最初見た時の印象は、私の感じ方がおかしいのだろうか……。
写真を撮りに行きたいのだが、私の注文したデジカメがちっとも届かない。高木産業、何やっとんじゃ。

後で浜っ子の友人にこのことを話した。
すると、「またあ。いつも切ったはったの稽古ばっかりしてるもんだから、すぐそれだ。あれはね、横浜だからヨットの帆をイメージして造ったの。いくらなんでも、刀の切っ先なんか、作るわけないでしょ」

何だ、そうだったのか、そりゃそうだ……と筆者もその時は自分の我田引水ぶりを反省した。ところが後日、またその友人に逢った時、彼女がこんなことを言い出した。
「この前ね、休みの日に会社の人と食事して、タクシーでみなとみらい地区まで来たの。そしてパシフィコが見えた途端に、その人がね、『キャッ、出刃包丁!』って叫んだのよ」

これは風水的には問題である。ああいう、鋭角の建築物というのは、都市と地域に決して良い影響はもたらさない。見たところ、私の言う刃の部分が海の方を向いていたようだ。
これは、国際都市横浜の貿易と経済にとって、甚だ宜しくない事態である。神奈川県は赤字が膨れ上がって、会社で言えば倒産寸前だというのに。

しかし、日本刀と出刃包丁……。なるほど、私の認識は一般の人と、そういう違いがあったのか。

そしてハーモニカの方の認識は、子供の頃は自分でも、かなり天才的に上手いと思っていた。いつもめったやたらに誉められるものだから。
ところが18歳くらいの頃だったか、突然、ラジオからリトル・ウォルターの「My Babe」だったか「Hate To See You Go」だったか流れてきた。
耳に入った途端に、余りのことにショックを受けて、ハーモニカを投げ捨ててしまった。
同じ楽器には違いないのに、何でこんなに違うのか……。私の演奏なんて、子供の練習にもなっていないじゃないか。今まで10年以上、何を吹いてたんだ。
今だに、このショックからは立ち直っていない。音楽に関してはたぶん一生、聴き手で終わるだろう。

※フェスティバルで見かけた妹尾隆一郎さんは、私が22歳ぐらいの時、大阪のディスコで偶然見かけた。
気持ち良く踊り狂っているとき、いきなりパンチの効いたハーモニカが聞こえて来たのでびっくりして見たら、大きな黒いサングラスを掛けた若者が、ロックバンドの中央でハーモニカを吹いていた。あれが妹尾さんだったと知ったのは、数年前にブルースバンド・ローラーコースターのCDを入手した時である。
あの時、日本人でブルースハープの名手を初めて見て、本当は声を掛けたくて仕方がなかったが、私は旅の途中だった。赤ん坊を連れて働ける場所を探して、日本中すっ飛んで回っている最中だった。
なんでそんな身の上の人間がディスコで踊ってるんだ、と言われても、そういう性格なんだ、としか言えないよ。もう、ウン十年も昔の話だけど。

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