買い物の序でにamazon primeでふと目についた「女殺し油地獄」。 近松原作ということとタイトルだけは知ってはいたが、未見だったので、何となく見てみた。
映画そのものは、それほど面白いとは思えないのだが、有名な歌舞伎俳優が出ているので、その演技力とか存在感を感じ取れて、なかなかのめっけもの。 やはり、舞台で鍛えた役者の立ち居振る舞いは、もうほんとに見事としか言いようがなく、かつての日本の古典芸能界の底力を、目の当たりにする思いである。
特に、新珠三千代のあざやかなセリフ回しや所作は際立っていて、こんなに凄い役者だったのかと、昨今のテレビドラマではまず感じられない見事さだった。 ほんとに、「子供たち、お茶が飲みたいの?そこに座りなさい」なんていう、何気ないひとことでも、上手な役者が言うとこんなに引き込まれるのかと、つくづく見入ってしまう。
◆黒沢映画のセリフって… セリフの見事さを考えていて、逆の意味で思い出したのだが、私は黒沢映画をほとんど見ない。 とても面白い、との評判なので、何度か見てみようとするのだが、どうもピンとこなくて、めったにやらない途中放棄、脱落をしてしまう。 とにかく、何を言ってるのか分からない。今風に言うと活舌(滑舌?かつぜつ?)が悪すぎて、筋も何もかもあやふやで、ついてゆけないのだ。
何で黒沢映画って海外で評判いいの?と考えてみて、もしかしたら、向こうは字幕か吹き替えで見るので、よく聞き取れない日本語で見るよりも面白いのかもしれない、と思った。 この件でネット検索してみたら、似たような感想を持つ人がゾロゾロ出てきて、やっぱりそうなのかもしれない、と思う。 黒沢映画はスタジオではなくロケで撮るので、セリフの音質が悪いとか、その時代の録音機器が良くないのかとか、いろいろ考えてみるのだが、残念ながらいまだに私には、黒沢映画の面白さを味わうことが出来ないでいる。 日本映画だから大丈夫な筈、という思い込みを捨てて、字幕のついたものでも見たほうが良いのかもしれない。
◆縁起担ぎ? この女殺し油地獄で、一つだけ妙に気になったことがあった。 新珠三千代扮するお吉が、亭主が出かける時に、「息つぎに一杯だけぐっとやってからお出かけなさいな」と冷酒を湯呑に注いで薦める。 慌ただしく外出の準備をしている最中なので、そのまま後ろを向いて用をしているのだが、振り向くと亭主は立ったままで、湯呑から酒をすすっている。
それを見たお吉 「何してはんの!立ったままお酒飲んだりして、…縁起の悪いー!」 と普段柔らかい物言いのお吉が、こめかみに青筋立てる勢いで強く咎める。 亭主のほうも、 「ああそやったな、せいてたからな、つい気のきかんことしてしもうた、すまんすまん」 と謝っている。
私はこれを見て、普段あんまり聞かない話だったので、へえーと思った。 立ったままで飲むのは確かに行儀の良いものではないが、立ったままでお酒を飲むのが良くないのか?それともお酒に限らず、立ったままで飲むのが良くないのか?それとも、出しなに急いで立ったまま飲むという状況が縁起が悪いのか、余りにはっきりと「縁起が悪い」と強く咎めた光景が、強く印象に残った。
もちろん、立ち飲みの居酒屋だったら、立ったまま飲むのが普通なので、そういうことも無いのだろうが、この後の事件とも繋がる縁起担ぎという点で、非常に印象に残ったシーンだった。 何かご存知の方がおられたら、是非教えていただきたいと思う。
前述の通り、映画のストーリーなどはそんなに面白い映画では無いのだが、とにかく役者が見事なので、一見の価値ある映画である。
1957年版:女殺し油地獄 監督 堀川弘通 脚本 橋本忍 東宝制作
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